深津基之 World  句集１

２０１７年度

４月	早春の紀の川に舞ふ唐の鳥	７月	南国や三度に青田さわさわと	10月	稲刈機幾何学模様田を描く	１月	行列に並び気長な初詣
	トラクター泥鰌の跳ぬる田打ちかな		海青し白く並ぶや砂日傘		新米を食べて嬉しい宴かな		北海の離島で初日拝みをり
	春疾風吹き飛ぶまいぞ畝マルチ		夕焼けに蔭る寺院や波の音		干し藁に雀群がる秋日和		門松や笑うて神を迎ひ入れ
	雪残る南木曽の逢瀬懐かしや		南風に帆を揚げ一路インド洋		我の目を見つめつ庭へ鶲来る		山茶花の枝を舞台に鳥ぞ舞ふ
	桃助橋袂艶やか三つ葉躑躅		竹樋の流しそうめん節で跳ね		秋雨に濡れて残りし紙吹雪		雪化粧我家の荒を隠したり
	君子欄久しぶりねと赤ら顔		通り雨願ひ叶ふか虹二重		借りし畑最後の成果芋を掘る		追ふ孫に正月の凧唸りをり
５月	代掻きの田水澄ますや響く声	８月	故郷の門火に浮ぶ面影や	11月	燻炭の煙たなびき冬に入る	２月	朝日射し凍る山肌紅をさす
	鯉のぼり夫婦ほのぼの桃の里		皆熟れて誇らしげかな夏野菜		赤黄と色づく湖畔雁渡る		蝋梅の香のほんのりと曇空
	駒鳥の声遠く聞き山萌ゆる		遠花火夜空を照らしドンで消ゆ		星月夜扮する仮装ハロウィン		人生の鑑の如く樹氷立つ
	薫風やとなりのトトロ家覗く		駅跡に昔を偲ぶ墓参		七五三吾子の幸せ祈る父母		漸うと深山に息吹水温む
	海岸の棚田に植ゑし早苗かな		鳴き急ぐ声憐れなり法師蝉		木枯らしやビル角曲がり洟啜る		岩陰の水神様に氷柱かな
	夏草や廃校に立つ金次郎		田の草を取る手を休む秋茜		ノーサイド勝負に涙ラガーマン		田の土に精霊宿る春隣
６月	点滅の車に合はすホタルかな	９月	あら不思議蝉が伴奏句碑詣で	12月	ラーメンの湯気立つ屋台暖を取る	３月	窓越しに中馬のひいな語りかけ
	川底へ友を追ひかけ鮎きらり		窯の火の赤鮮やかに秋の暮		大空に白く群れ飛ぶ百合鴎		撮り合うてインスタ狙ふ卒業生
	三光鳥日本平の木立濃き		幻の米に育てと稲架を掛く		冬夜空よぎる閃光きぼう行く		苔を分けそつと顔出す座禅草
	雨上り紫紺に映える茄子かな		伊吹山飛翔の鷲や山粧ふ		手に力込めて搗く餅湯気煙る		片栗の花に魅かれて首を垂る
	水やれど焼け石に水旱畑		古着きる主に似たる案山子かな		寄り添ひて鴛鴦のごと夫婦なり		菜の花や歓声の立つをちこちに
	雷鳥の親に守らる雛の列		鷹渡る白樺峠に友集ふ		梵鐘を聞きつつ寝入る除夜の床		折らずとも遠くに眺む山桜

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