句集

４月	遅咲きの枝垂桜ぞ主役なる	７月	豊漁を神輿に願ひ島廻る	10月	紙吹雪曳き出す山車の威勢良し	１月	穏やかな初東雲や寄する波
	駐車場お花見バスの勢揃ひ		青鷺の干潟に休む昼下がり		秋雨や山門にちと雨宿り		初晴に溢るる笑顔遊園地
	廃校に草木の息吹春近し		涼しさや摩周湖の風頬に受け		川霧の漂ひ舟の揺らぎをり		初富士と餞湯の壁仰ぎ見る
	新学期校舎とりまき山笑ふ		夏山に昂る気持ち河童橋		もみぢ葉と水面彩る池の鯉		水澤のうどん食べたし寒の入
	雨上がり花筵引く背割堤		四つの国跨ぐ白山雲の峰		田を鋤いて黒き山脈冬近し		雪晴に鹿と目の合ふ刹那あり
	銘木の榎も藤の羽織かな		壁這いて伸ぶる青蔦木立越ゆ		軒下に算盤のごと柚餅子かな		うつ田姫熱り立つよな地獄谷
５月	遠足の子らに微笑む廬舎那仏	８月	炎天に立ち枯れし木々上高地	11月	散り染めて銀杏落葉の刻となる	２月	寺囲む節分草や豆のやう
	田水張る鱗と紛ふ千枚田		海越えの涼風送る利尻富士		蕎麦刈や味にこだはる天日干し		立春の陽射し背に受け散歩かな
	谷越えの後曳橋や山滴る		野良仕事虹を眺めて一休み		落葉踏み寺社を巡るや洛北路		春光や読経聞こゆる寺の朝
	花ももや荒瀬泳ぐごと鯉幟		合掌の屋根裏通る秋の風		冬の朝きりりと光る茜雲		春暁のそよ吹く風やひんやりと
	新緑に合掌造り凛と建つ		女郎花今宵の宿の床にあり		夜の明けて沼をさわがす浮寝鳥		辛夷咲き山陰白く光りたる
	土用入奄美の海の波高し		舟揚げぬインクラインに秋の雨		日溜りに木立の影や冬ぬくし		長閑なり犬吠埼の波静か
６月	神恩の太鼓聞へし夏の夕	９月	泥ぶたれ願ひの多し秋の空	12月	初雪にほんのり粧ふ浅間山	３月	船の来ぬ運河の倉庫春の昼
	薫風の内宮の前襟正す		鳴き止みて久女を偲ぶ秋の蝉		あぶり餅参道挟み競ひ合ふ		泡立ちて寄せては返す春の波
	口惜しや玉虫色と喩へられ		蝦夷の旅怪しき花ぞ鳥兜		山行の道筋寒し杉木立		我先に頭擡げる土筆の子
	深々と籠る湿原五月闇		青北風や伊良湖水道波高し		冬ざれて朽ちゆく小屋の影長し		朔日の伊勢に参拝蓬餅
	風を受く岬の黄菅騒ぎたる		秋時雨奈良井の宿へ急ぎ足		放水の鎮まるダムや山眠る		咲き揃ふ桃源郷や桃の花
	華やかに大地を覆ふ蝦夷黄菅		夙に見る鴻雁来る茜雲		雪沓を履いて嬉しや遠くまで		風吹きて水面に揺るや桜影

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