句集

４月	走り去る雉子の親子矢のごとし	７月	笹五位の魚道窺ひ餌探す	10月	松の実も交喙鳥の嘴に難も無し	１月	初鶏や一年の計声高に
	夜桜や淡墨色も艶やかに		念仏に聞こゆる音ぞ称名滝		実むらさき敢へて読みたき物語		わが畑に豊穣もたす仏の座
	猫柳冷えし指先包むかな		高原の花に群れ飛ぶ夏の蝶		ゆらゆらと柿いっぱいで撓ふ枝		皆そろひ今年もめでたし初笑
	奥山に声よ届けと呼子鳥		木葉木菟哀しく鳴ける夜明け前		羽色で猿とは哀し猿子鳥		大鷲の旅立つ前に湖北行
	四年目をけなげに咲くやシクラメン		赤裸大火にめげず復元へ		団栗を見いるる孫のどんぐり眼		毒あたり心配よそにふくの宴
	高遠や栄華の果ての芝桜		青シートに家族見上ぐる花火かな		山と積む間伐材や冬支度		寒椿赤く染むるや散歩道
５月	花蜜を探し我が家に眼白かな	８月	我先と鵯の群れ海渡る	11月	尾白鷲湖の鳥襲ひ波立てり	２月	終焉のお告げとなるか春告鳥
	端午の日柱の傷と背比べ		天象儀睡魔の襲ふ天の川		霜月や七つの晴れ着たたみをり		春菊を入れて土鍋の煮え立ちぬ
	溝浚へ棚田を落つる水の音		乙女らの願ひを受くる織女星		野兎の仕業とみたり黒き玉		願はくばあの世を見たし蜃気楼
	けたたまし水田飛び交ふ鳧の声		電線に授受つながりの秋燕		足温め疲れし体癒やしけり		住み慣れし塒離るる百千鳥
	見え隠れ植田を過ぎる番鳥		新盆や遺影に浮かぶ在りし日々		手作りの料理持ち寄り感謝祭		如月や大和路春は遠からじ
	駒草の揺る馬の背や風強し		蔵出しを待ちわびて醸む濁り酒		聞きあきし親父の小言空つ風		蝮草これより先は通せんぼ
６月	キョロロロと水乞ふやうな赤翡翠	９月	連れ立ちて流るる雲や雁渡し	12月	吹き荒ぶ嵐に耐へよ悴け鳥	３月	雀の子親と離れてひとり立ち
	保津川の香魚を食べに西の京		くぐる門常寂光寺の黄葉映ゆ		雪の田のいずこにありや珍の鳥		春一番髪を押さふるリクルート
	小鰺刺海面めがけ真っ逆さま		不細工が効果増すや鳥威し		初心者も得意げに飲む蕎麦湯かな		山葵田や鼻をふくらめ深呼吸
	谺して山翡翠の声ダムの壁		潮騒の伊良湖岬や鷹渡る		笹鳴や老いにむち打ち春を待つ		山鳥の伸ぶるしだり尾道阻む
	愛くるし繭人形の勢揃ひ		赤黄に抜くる青色秋の空		こんどこそよい年望む年の市		明日から新生活へ三月尽
	梅雨寒や裾を絡げて南禅寺		友去りて釣瓶落しの夕日かな		万両の赤き実あふる狭き庭		交番の机の上にヒヤシンス